働き盛りから、お口に注意を

 「80歳になっても20本以上の歯を保とう」という8020運動。健康な歯を維持することで、おいしく食事を摂り、充実した人生を過ごすことを目的としています。では、80歳で20本の歯を保つには、いつから注意したらよいのでしょうか。80歳からでは遅すぎます。一般に歯や口の病気というと頭に浮かぶのは“むし歯”ですが、歯のなくなる原因を調べてみると、むし歯でなくなる歯は全体の半分だけで、残りの大部分は歯周疾患(いわゆる歯槽膿漏)が原因となっています。食事がおいしい、充実した老後のためには、働き盛りの今からお口の中に注意を向けることが必要です。

 また、歯は全身の健康に関わっています。歯が悪く、食物を噛まずに飲み込むことで、胃や腸に負担がかかり、消化器系の疾患が発生することがあります。また、よく噛むことで少ない食物で満腹感が得られますが、噛むことが少ないために食事を摂りすぎ、肥満や糖尿病が発生することもあります。これらの疾患の治療では、直接的な治療と並行して歯の治療を行ない、噛む能力を回復させることが有用です。また近年、口の中の細菌が全身に及ぼす影響も注目され始めています。ある疫学調査の結果を見ると、歯の周りの骨が溶けてしまうまで進行した歯周疾患患者では心疾患にかかる可能性が、歯周疾患に罹っていない人の4倍もあります。また、口腔内細菌に由来する抗原が腎臓の糸球体に入ることで腎疾患が、関節の内部に入ることでリウマチが発生することが知られています。そして、忘れてならないのが「肺炎」です。肺炎を日本人全体で見ると、死亡原因の4位を占め、死亡者の9割以上が65歳以上の高齢者といわれています。高齢者にとって、肺炎は生命に関わる疾患なのです。老人ホームで行なった研究では、口の清掃を励行した人達では肺炎による発熱や死亡が減少したという結果が得られています。

 兵庫県歯科医師会が行った80歳以上の人の医療費調査によると、8020を満たしていない人の医療費は、8020を達成している人の医療費より2割以上多いという結果がでています。

 歯の治療には、時間と回数がかかります。また、一度治療が終了した歯にも、定期的なメンテナンスが必要となります。そのために、「かかりつけ歯科医」を決め定期的健診を受けることは、お口の健康を保つ上で大変に有用です。むし歯の発症が多い若い人ほど、「かかりつけ歯科医」を持っていないのが現状です。若い頃、働き盛りの頃から「かかりつけ歯科医」を持つようにしてください。

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