「ぼけ防止装置」としての入れ歯

老化現象にはきわめて個人差が大きいと言われています。廃用性萎縮という現象で使っていなければどんどん衰えてくるということになります。歯を失って噛めない状態がそのまま放置されれば、顎の骨の吸収がすぐに進行してきます。お口の筋肉も衰えて、老人特有の顔貌になります。
こういった老化現象を追い払うことは決して難しいことではありません。歯を失ったとしてもすぐに良い入れ歯を作ってもらってしっかり噛むことを続けていれば口腔機能をいつまでも維持することが可能だからです。  ところで、しっかり噛むことで維持できるのは口腔機能だけではありません。実は 「ぼけ防止」 にも大きな効果があります。顎を動かしていると脳のなかを流れる血液の量が、てきめんに増加するのです。
ラットなどを使った迷路学習実験でも、硬い餌を噛んでいるグループはあまり噛まない対象群よりも賢くなることが示されています。ドライブ中の眠気ざましにガムを噛むのは、ハッカなどの刺激もあるでしょうが、咀嚼 (そしゃく)が脳に新鮮な血液を送りこむので効果があるのです。
超高齢者が急激に増加していくなかで、入れ歯には 「ぼけ防止装置」 の役割もあることを見落とすべきではなくこれからの入れ歯では、こうした面への配慮も重視されるでしょう。

出典:入れ歯の文化史~最古の「人工臓器」~ 笠原 浩著 文春新書

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